【書評レビュー】大屋雄裕・安藤肇『法哲学と法哲学の対話』

「法学教室」の法哲学連載を単行本化、法哲学者の対話的論争を書籍化

最終更新日:2018年3月15日

法学部・法科大学院生向けの月刊法学誌「法学教室」の連載を単行本化。
法哲学者がテーマを決めて論争をおこないます。

大屋雄裕・安藤肇『法哲学と法哲学の対話』有斐閣、2017年

私の評価 ★★★★☆
ページ数 366頁
著者・編者 大屋雄裕・安藤肇
出版社 有斐閣
出版年 2017年4月21日
出版社ページ 有斐閣 書籍詳細ページ
目次

第1テーマ 権利と人権のあいだ(大屋・安藤/倫理学からのコメント:江口 聡)
第2テーマ 団体が,そして団体のみが(安藤・大屋/民法学からのコメント:水津太郎)
第3テーマ 平等の平等か,不平等の平等か(大屋・安藤:政治哲学からのコメント:井上 彰)
第4テーマ 法と危険と責任と(安藤・大屋/刑法学からのコメント:佐藤拓磨)
第5テーマ 正義・同一性・差異(大屋・安藤/政治学からのコメント:田村哲樹)
第6テーマ 最高ですか?(安藤・大屋/憲法学からのコメント:片桐直人)
少し離れたところからの眺め──<異世界通信>としての対話(米村幸太郎)

価格 2,700円

「法学教室」の連載を単行本化したもの。
大屋と安藤の対話、それにたいする第三者の評論を1テーマとして6テーマを掲載。

対話をしている大屋雄裕と安藤肇は、どちらも東京大学法学部で日本法哲学界の権威・井上達夫氏から教えを受けた法哲学者。
大屋の方が一回りくらい年上で、2015年から慶應義塾大学の教授。
安藤は自ら功利主義者を公言する若手の研究者で、神戸大学大学院の准教授。

大屋は法哲学を武器として面白い著書をたくさん著している研究者で、児童ポルノ、電子情報、エヴァンゲリオンなどをテーマに書いています。文体もこなれていて読みやすい。
安藤は逆に若いのにアカデミックな言い回しが多く、いわゆる文系の学者先生特有の読みづらい文体が特徴。法学教室のユーザー層を考えれば、もう少し砕いた文体の方が望ましいのにと余計なことを思う。

論文や論争というのは、通常は各執筆者が自分の論文の中でおこなうものですが、本書は1つの本の中で論争をおこなうという形式。
テーマはお互いに出し合い、テーマ提示者がまず自分の論を論ずる。それに対して、対話者が論じる。そして、第3者である評者が論じる。という形式になっています。
誰に反論されるのかを最初から見越した論文というのは新鮮。わざと突っついてくるような罠?を仕掛けたりしています。

ネット上で「論破!」とか言っている人は一度読むといい。
「論じる」とはどういうことなのか、少しはわかるかもしれない。

本書のテーマは多岐にわたり、第1テーマでは動物の権利に焦点を当てています。
圧倒的な技術力を持ち、実力では人類が到底対抗できないような異星人が突如地球に来往したとしよう。(2頁)」と、使い古された思考実験ではありますが、人間が現在人間からみた動物のような状況になったらどうなるのか?と問うことで「権利」について考えます。
テーマ2は、「団体」を考えることで、主体の「存在」とはなんなのか?を問う。
テーマ3は「平等」という正義論の中心的課題に焦点をあてある。1人1票やアファーマティブ・アクション、アマルティア・センの理論やロールズも引き合いにだします。
テーマ4は刑法の課題である「不能犯」とはなんなのかを考えます。「未遂犯」と「不能犯」はなにが違うのか。いわゆる「新派刑法学」や「危険犯」意思説など、刑法の根底に関わることを哲学します。
テーマ5はずばり「正義」。普遍化可能性とは?法の下の平等とは?婚姻とゲイの権利など、正義について考えます。最近哲学会で話題のジャック・デリダなんかも出てきて面白い。
テーマ6は最高法規とされる憲法について考える憲法論。違憲だけど合法(事情判決の法理)ってどういうこと?など、憲法を考えるときにぶち当たる壁について論じています。

法哲学を学んでいる方や興味がある方は当然ですが、実定法を学んだ方なら楽しく読めると思います。
中堅の法哲学者なにを考えているのか、同じ井上達夫門下の学者が論争をするとどうなのか、学術的に興味深いというよりは一種の遊びとして読める。知的な遊びを楽しみたい方におすすめの本です。

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