5分でわかる正義論 正義の系譜と主張の概略

最終更新日:2018年3月15日

正義論の系譜(概略)

・正義とはなにか

・何の正義か

・自由とはなにか

・平等とはなにか

このような問いをつづけ、理想とする社会の姿を想像し、そこへと至る道を考える議論を「正義論」といいます。
権利」「財産」「自由平等福利」といった要素をどのような「価値」に基づいて「配分」するのかという「配分の正義」が主要な論点です。
必要に応じた配分を主張する主要な論者としてロールズやドゥオーキン。
功績に応じた配分を主張する主要な論者はノージック。
一方、「権利と善」を比較してみると、ロールズやノージックは権利の善に対する優越を前提としているのに対し、サンデルらは「善」の優越を主張し、「配分の正義」だけではなくさまざまな要素を考慮する必要があるとしている。

正義論は哲学や政治思想の一分野ですが、西洋思想でいえばソクラテス・プラトン・アリストテレスが源流となるでしょう。

その中でも、現在でも大きな研究対象となっている特筆すべき存在はアリストテレスです。

アリストテレス以降も、さまざまな知の巨人たちがあらわれ「正義」について考えてきました。
ここではそんな正義論の系譜を概観します。
※あくまでも概観です。かなり省略しています。

アリストテレスは紀元前350年くらいに活動した古代ギリシアの哲学者です。
哲学者といっても現在の哲学という学問領域とは大きく異なり、人文科学・自然科学・社会科学すべてにまたがっていました。アリストテレスは「万学の祖」とも呼ばれています。

次に出てくる巨人は近世に入ってから。
リヴァイアサン』のトマス・ホッブズ、『統治二論』のジョン・ロックは17世紀に活躍。
社会契約論』のジャン・ジャック・ルソーは18世紀に活躍しました。
社会契約とは、人間社会の原初の状態や成り立ちを思考実験することで、人間は契約により縛られている(自らを縛っている)とする思想です。
自然法自然権といった、いわゆる「人権」の根拠を神などの形而上学に求めることをやめた画期的な思想でした。
社会契約論により、神や宗教的権威によらずに法や権力の根拠を説明することが出来るようになったのです。

それから少し後にイギリスで生まれたのが「功利主義」。
ジェレミー・ベンサムが創始者であり、盟友の息子のジェームズ・ミルの息子ジョン・スチュアート・ミルが理論をより強固なものへとしました。
最大多数の最大幸福」で有名ですが、快楽と苦痛を比較して快楽が多ければ良いことであり、快楽を多くすることが良いおこないであるとする。ベンサムは単純に快楽の量だけを考慮の対象としたが、ミルは「満足した豚より不満足なソクラテスでありたい」と、快楽の質もまた重要であるとした。

功利主義は政治思想に多大な影響を与え、その反動として正義論は停滞期を迎える。
次に正義論が大きな転換期を迎えるのは戦後になってから。
1971年に刊行されたジョン・ロールズの『正義論』は、現在まで続く正義論の活発な議論を引き起こす号砲として非常に大きなものであった。
正義論』は「無知のベール」と「正義の二原理」という社会契約論で知られる。
『正義論』以降、正義論は学問分野を越え議論されているが、そのほとんどはロールズ『正義論』への反発か継承、どちらの態度をとるのか決めなければならない状況となった。

ロールズ『正義論』と「功利主義」への態度。
この2つが、正義の理論の物差しとして重要となる。

ロールズ『正義論』自体は、王道となっていた功利主義を批判し、社会契約論と系譜を同じくするものであった。
一方「功利主義」も発展を遂げており、本人の選択が重要であるとする「選好功利主義」、快楽の総和ではなく平均が重要だとする「平均功利主義」(従来までは総量功利主義)、功利の判断時期を規則制定時のみとする「規則功利主義」(従来までは人の行為時が判断時期であるとする行為功利主義)などがあり、ピーター・シンガーが現在の主要な論者のひとりとなっている。
※選好功利主義に対しては、人間は環境に適応するものであり、劣悪な環境にある人はささいな選好の充足にも多大な満足をするため、公平としての正義を叶えることはできない、とする有力な批判がある。

ロールズを継承したロナルド・ドウォーキンは、ロールズが「基本財の平等」を主張したのに対し、「資源の平等」を主張した。ドウォーキンの理論もまた社会契約であり、ロールズの「無知のベール」に対し「仮想的オークション」と「仮想的保険市場」により資源の平等をはかろうとした。資源とは、成果を達成するための手段を意味する。

ロールズを批判することにより理論を展開する思想は多い。

ロバート・ノージックは著書『アナーキー・国会・ユートピア』においてリバタリアニズムを提唱した。リバタリアニズムとは、自由と権利(自由への権利)がもっとも重要であり、国家は治安維持等の最低限のことだけをおこなう最小国家であるべきとした。これは決して平等を否定しているわけではなく、自由と権利の平等を強く主張するものであると考えられる。ノージックのほか、マリー・ロスバードやフリードリヒ・ハイエクが主要な論者であり、日本では森村進が活発に自論を展開している。

マイケル・サンデルが主張するコミュニタリアリズム(共同体論)は、人間はそのコミュニティと関わり生きていて、コミュニティを排除した「無知のベール」は「負荷なき自己」であると批判し、歴史・伝統・文化をふまえた「位置ある自己」が重要であると主張する。普遍的な正義よりも、共同体の絆や美徳の促進による正義の実現を目指す。チャールズ・テイラー、アラスデア・マッキンタイアも主要な論者である。

ノーベル経済学者であるアマルティア・センが主張する「ケイパビリティ・アプローチ(潜在能力説)」は、社会のありようを決めるというよりも、社会の状況を判断する尺度としては基本財でも資源でも所得でもなく「ケイパビリティ」しかないという主張となっている。ケイパビリティ「論」ではなく「アプローチ」であることも重要な意味がある。

このほか、1990年代くらいから活発に議論されているものとして「フェミニズム」「多文化主義」「世代間の正義」そして「グローバルな正義論」がある。
特に「国境」が人権や人びとの生活水準を隔てる「線」であるのはおかしいとする「グローバルな正義論」は各分野で活発に議論や交流が行われていましたが、2016年のイギリスのEU離脱決定、難民問題、そしてトランプ大統領の当選によって、現実的にはまったく逆行した国際社会の状況となっています。

このほか、環境や動物についても「正義論」の分野で議論されることがあります。

正義論の関連学問分野

正義論は学問の垣根を越えて、さまざまな学問分野で議論されています。

法学部法学科であれば「法哲学
法学部政治学科であれば「政治哲学
経済学部であれば「厚生経済学
文学部哲学科であれば「公共哲学
そして、「倫理学」が主な関連学問領域となります。

同じ「正義論」に関する議論であっても、それぞれの専攻学問により中身が若干異なることがありますし、それぞれの専門家が協力する必要があることもあります。
たとえば経済学者のアマルティア・センと哲学者のマーサ・ヌスバウムは協働して活動をおこなっていました。

「政治哲学」の目的のひとつとして、施政の根拠となる思想や目的をどのような「正義」とするのか、その社会でかなえるべき「正義」とはなにか、「正義」に適う社会とはどのような社会であるのか、を考えることがあります。
ですが、実際に行動にうつすためには、経済学や政策学の知識が必要となります。
経済学者の助けを借りて政策を作ったとしても、今度はその根拠となる「法律」をつくる必要があります。そのためには、法とはなにかといったことや、その国の国内法で正義に適った立法をするためにはどうすればいいのかといった知識も必要となります。
そして、実施された政策の効果をはかるためには社会学者の助けが不可欠でしょう。

「政治哲学」と「法哲学」は議論内容がかなり重なっていますが、一面では政治哲学は政治や政策のための基礎となる思想を提供するのに対し、法哲学はさらにその基礎となる思想を提供するとも考えられます。
例えば、「死刑」という制度を考えるときに、政治哲学上で「功利主義」をもとにすれば、重犯罪の1人の命と人権よりも、それを失うことによって得られる社会的利益(あるいはその他大勢の人権保護)のほうが大きいと判断するでしょう。これをさらに突き詰めて、そもそもその「人権」とは何であるのか、なぜ人権があるのか(自然法論と法実証主義)などは主に法哲学の分野です。自然法を根拠とする人権が絶対であるならば、ときに犠牲を強いる功利主義を採ることはできないでしょう。

「ハーバード大学白熱教室」で一時期話題にはなりましたが、「正義論」はいまだにマイナーな学問分野であると言えるでしょう。
ですが、「正しいってなに?」「正しい行いとは?」「みんなが幸せであるためにはどうすればいいのか」「世界人類が平和でありますように」「理想的な社会ってどんな社会」といった、誰もが考えたことがある疑問に答える学問であり、哲学であり、政治学であり、法学であり、経済学なのです。

環境破壊、動物実験、人権、憲法、女性の社会進出、遺伝子倫理、尊厳死、移民、難民、戦争、税金、夫婦別姓、LGBT、右翼・左翼、報道の自由、脳死、人種差別、格差、貧困などなど、さまざまな問題を考える際の根底を形作ることができる学問である「正義論」。
頭が良くて勉強が得意な一部の人たちだけではなく、多くの人に知って考えてもらいたい学問です。

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